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2021.04.21

【移住コラム】中之条ノンフィクション #1 ~移住のスペシャリスト~

【中之条ノンフィクション】
2020年11月に群馬県の中之条町に移住したRATEHIGHERライター・谷本が送る実体験記。ウソ、大袈裟無しのノンフィクションでお届けします。

 

群馬県中之条町、四万温温泉の奥にある奥四万湖。天気が良ければ【四万ブルー】と呼ばれる四万エリア特有の麗しいブルーを見ることができる。私が中之条町で最初に訪れた場所であり、その風光明媚な景色に感動したのを今でも明確に覚えている。

 

私が東京を離れ、群馬県の中之条町に移住したのは2020年の11月末。13年ぶりの拠点移動は初めて一人暮らしをした時のような希望と不安が入り混じり、この年齢(38)でもまだこんな気持ちになれるんだ、と少し浮き足立ちながら引っ越した。

ちょっと元気が無くなっている中之条町の四万温泉を地域ごと盛り上げようとしている社長に師事することになったことが私の移住のきっかけ。将来への勉強ができることに最初は昂る気持ち抑えることが大変なほどだったが、その気持ちは移住後数日であえなく玉砕。思ってたのと違う!という反抗から生まれるエネルギーと、初めての業界なんだから仕方ない、という自分を納得させる気持ちのジレンマがその後一定期間続いた。

もちろん、生活スタイルも一変。中之条町は21時にはほとんどの商店が閉まり、車の量もまばらになる。四万で見る星は綺麗で魅力的だけど、賑やかな生活が好きだった自分にとっては寂しさが募るばかり。オンラインや電話で旧来の知人と繋がりは持てるものの、やっぱり直接会いたい。こんな時に彼女がいれば。ああ、寂しい。厳しい寒さと変化と刺激の少ない生活に心は廃れていくばかり。

自宅近くを流れる吾妻川沿いにある親水公園。この時まだ桜は咲いていなかったが水仙の輝くイエローが眩しかった。地方暮らしの最も大きい恩恵「自然」をすぐそばで感じれることは移住生活の醍醐味だ。

と、私は移住生活のスタートで少しつまずいてしまったのだが、明けない夜はない、と持ち前のポジティブマインドで乗り越えて短い冬はあっという間に終焉。今は社長をはじめ、一生付き合わせていただけるような魅力ある人に支えていただいて引っ越し前の生活よりも気持ち豊かに過ごすことができている。現状では移住成功!と言ったところだ。

けれど振り返ってみると移住を構想してから引っ越し、新しい生活に慣れるまでは正直、かなりキツかった。前述のように引っ越し前は気持ちが昂っていたが、同時に不安も大きかった。見知らぬ土地に単身で乗り込むわけだから当たり前と言えば当たり前なのだが、移住にはっきりとした目的があったためにその気持ちには目を瞑っていた。けれど日に日に大きくなっていく心のモヤモヤは、徐々に正面から受け止めなければならなくなるほどになっていった。

こんな不安にならない移住の方法はないものかと思っていたのだが、そんな時に移住・定住コーディネーターという職業を知った。きっかけは中之条町で活躍している村上久美子さんを知人に紹介してもらったからだ。そう、村上さんの職業が中之条町移住・定住コーディネーターだったのだ。移住前に連絡取り合っておけば…。後悔したが時すでに遅し。移住で相談することはできなかったけれど村上さん経由でたくさん知り合いができたし、何せ中之条町の有名人だから「村上さんと知り合いで…」と枕詞をつけるだけで街の人と会話が弾む。いやはやなんとも心強い。

村上久美子さん 中之条町移住・定住コーディネーター
元fashion stylist。現在は移住先の群馬県中之条町でMFプラン代表(不動産業)、移住定住コーディネーター、複合施設「かたや」オーナー、中之条ビエンナーレレジデンス運営、伊参スタジオ映画祭staff、屋根屋の嫁、9歳児の母。服とタイ料理とウイスキーが好き

移住・定住コーディネーターとはどんな職業かというと、移住希望者のお世話はもちろん、引越し先の地域の人のケアや移住者との関係まで繋げてくれる人のことだ。村上さんの話を聞くとどうやら移住・定住コーディネーターの職域は地域や、コーディネーター個人によって大きく異なるようだから一括りにするのは難しい。けれど私が知っている移住・定住コーディネーターは村上さんだけ。出会った瞬間からエネルギッシュな彼女にとても興味が湧いたので移住コラムの第一回のゲストにオファーをし、移住について根掘り葉掘り聞いてみた。前置きが長くなってしまったが、ここからが本題。移住の魅力、ブームへの違和感、そして移住に向いている人とそうではない人など、ポジティブ・ネガティブの両側面から本音と真実でお届けする。

村上さんは県内で二人目という移住・定住コーディネーターの先駆け。今では月に5〜6件のペースで移住者の相談に乗っているそうだ。様々な移住者を見てきた村上さんに移住・定住コーディネーターとはどんな仕事なのか聞いてみたら、やや意外な回答が返ってきた。

取材は村上さんがオーナーの「かたや」にて。2Fのアーティストレジデンス引き渡し直前で絶賛工事中の中対応いただいた。レジデンスに関しては次回以降にご紹介するのでお楽しみに!

「移住・定住コーディネーターっていう名前に引っ張られて移住者の世話をしてくれる人だと思っている人が大半だと思うんですが、実はそうじゃないんですよ。移住者の引っ越し先の地域住民のケアの方が大事で、その仕事がコーディネートの大半を占めるんです。人で溢れかえる都市部と違って地方は人の顔がよく見えるから地域の人は移住者のことをよく見るんです。だからその人たちに移住者の理解をしてもらわなきゃいけないし、移住者が住んでからも問題が起こらないように常にコミュニケーションを取らなければいけないんです。私が担当する移住者の希望はできる限り叶えたいから家賃交渉まで首を突っ込みますし、移住に理解ができない地域の人を説得して移住者が気持ちよく引っ越しできるように場を整えたりもします。正直、ややこしい人もいるわけですよ。だから人の心の隙間に割って入れる図太い神経が必要なんです。なんでも聞いてくれる、優しい、かわいい、だけじゃコーディネーターは勤まりません笑」

私は完全に名前に引っ張られていた。移住者のために、ということを突き詰めていくと、地域のために、ということに辿り着く。なるほど、本質を突いた回答だった。ああ、やっぱり最初から村上さんに相談しておけば…。(次回へ続く)

次回からは村上さんのインタビューをメインに、移住の魅力や地域の魅力、却って移住に向かない人などをお題に3〜4週に渡ってお伝えします(鋭意編集中)。移住を考えている方は次週以降もぜひお楽しみに。

Writer Profile

谷本春幸(右)

Writer Profile

谷本春幸(右)

PR / ライター / スパゲストハウスルルドリーダー・広報

EDIFICE、417 EDIFICE、JOURNAL STANDARD、WISMなどのプレスを経て独立。 フリーランスでライターを経たのち、群馬県・四万温泉の宿「スパゲストハウス ルルド」のリーダー兼広報に。現在は群馬に拠点を移し、フリーランスライターとの二足の草鞋で活動中。 INSTAGRAM:@haruyukitanimoto Twitter:@haruyukitanimo1